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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)527号 判決 1963年5月31日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人真田幸雄の上告理由第一点について。

控訴人(被上告人)が昭和二八年一〇月二一日訴外松原林業株式会社から本件立木を買い受け、その所有権を取得し、同年一一月二六日立木法による所有権取得登記を経由したこと、控訴人が右訴外会社との間で本件立木の伐採について請負契約を締結し、右訴外会社は被控訴人との間で右立木の伐採について下請負契約を締結したことおよび本件伐木は被控訴人が右立木を伐採したことにより生じたものであることは、原審の確定するところである。右事実によれば、控訴人が伐採と同時に本件伐木について占有権を取得した旨の原判示は、正当である。したがつて、被控訴人が本件伐木の所有権の対抗要件の欠缺を主張するについて正当の利益を有すると否とを問わず、控訴人は本件伐木の所有権の取得を被控訴人に対抗することができるものといわねばならない。所論は、ひつきよう、控訴人の本件伐木に対する占有の取得に関する原判示と異なつた見解に立つて原判決を非難するか、その結論に影響しない事項についてこれを攻撃するに帰するから、採用できない。

同第二点について。

被控訴人がその占有する本件伐木に関し、前記訴外会社に対し、金一三一万八六七円の請負代金債権を有すること、右債権の弁済がないこと、被控訴人は、控訴人の承諾なくして、昭和三〇年三月一六日、訴外大野木工株式会社に対し原判決添付第二目録記載の(1)ないし(4)の伐木を売り渡す契約をし、その手付金として金五万円を受領し、同年同月頃、右伐木を担保として、訴外大野信用金庫から金四〇万円を借用したこと、控訴人が昭和三二年九月二五日本件留置権について消滅請求の意思表示をしたことは、原審の確定するところであり、民法二九八条三項の法意に照せば、留置権者が同条一項および二項の規定に違反したときは、当該留置物の所有者は、当該違反行為が終了したかどうか、またこれによつて損害を受けたかどうかを問わず、当該留置権の消滅を請求することができるものと解するのが相当である。したがつて、原判決が、前記確定事実に基づいて、本件留置権は、控訴人の消滅請求の意思表示により消滅したと判示したのは正当であり、所論は、右と異なつた見解に立つて原判決を攻撃するに帰するから、採用のかぎりでない。

同第三点について。

原判文を通読すれば、原判決は本件留置権は原判決添付第二目録の(1)ないし(5)の伐木全部を目的物として成立したものとしていることが看取され(原判決九枚目裏四行および五行欄に第二目録記載の「(1)乃至(4)」とあるのは「(1)乃至(5)」の誤記と認める。)、右留置権が控訴人の消滅請求の意思表示により消滅したことは前点説示のとおりである。(原判決一三枚目表終りから四行欄に第二目録記載の「(1)乃至(4)」とあるのは、「(1)乃至(5)」の誤記と認める。)したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原判決を正解しないでこれを攻撃するに帰するから、採用できない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介)

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